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長崎家庭裁判所 昭和50年(少ハ)2号 決定 1975年2月20日

少年 O・K子(昭三〇・一一・二四生)

主文

事件本人O・K子を昭和五一年二月二〇日まで中等少年院に戻して収容する。

理由

一  本件申請がその理由とするところは、要旨次のとおりである。

(1)  事件本人は、昭和四九年六月二六日、九州地方更生保護委員会によつて、当時収容されていた中等少年院(筑紫少女苑)の仮退院を許可されたが、その際右委員会によつて出院の日を昭和四九年七月三一日と指定されるとともに、仮退院の期間中遵守すべき特別の事項として次のとおり指示された。

I  昭和四九年八月一日までに長崎市○○町××(父)O・Iのもとに帰住すること。

II  昭和四九年八月一日までに長崎保護観察所に出頭し、その保護観察下に入ること。

III  無断家出や外泊をしないこと。

IV  男友達とふしだらな交際をしないこと。

V 仕事について地道にまじめに働くこと。

VI  パチンコ遊びなど盛り場で遊ばないこと。

(2)  事件本人は、昭和四九年七月三一日、母および姉の出迎えを受けて筑紫少女苑を出院し、同日上記指定の場所に帰宅し、翌八月一日、右母、姉に同伴されて長崎保護観察所に出頭して保護観察の趣旨と、仮退院期間中の心得について説示を受け、同観察所の保護観察下にはいつたが、

(イ)  仮退院後の一ヶ月余の昭和四九年九月二〇日頃および同月二七日頃の二回、○松○(二四歳位)およびタクシー運転手(氏名不詳)の二名と各ホテル泊りで情交し、

昭和五〇年一月一六日にはタクシー運転手○永○一○と万屋町所在のホテル「○○」に一泊、情交の後、同人と同棲生活を重ね、同月二三日から同年二月二日までの間、佐賀県藤津郡○○町所在の芸者置屋「○○」に住込み、右期間中五回に亘つて売春行為をなし、(一般遵守事項第四号ならびに一般遵守事項第二号違反)

(ロ)  昭和四九年九月二三日および同年一二月一二日の二回、無断家出をなし、(一般遵守事項第一号前段および特別遵守事項第三号違反)

(ハ)  昭和四九年一一月一七日市内○○町○○アパート×の×棟の×××号に、長崎保護観察所長の許可なく、無断で転住し、(一般遵守事項第四号違反)

(ニ)  昭和四九年一〇月一日、崎市○○町所在の「○○」で就労中、同店において現金一万円、男物腕時計一個を窃取し、

同年九月二八日、長崎市○○町○○衣料店で衣類等一万九千円相当を、同年一二月一五日から同月末までの間に長崎市内の各種店舗において、洋服化粧品等総額二〇万三千円相当を、いずれも父、或は姉等の名前で購入し、

昭和五〇年一月二〇日姉婿の勤先より姉婿の名をかたつて現金五万円を騙取し、

更に月日不詳の頃、父母の知人から現金二万円宛合計四万円を父母の名をかたつて借用した(一般遵守事項第二号違反)

ものであつて、事件本人の性格および現環境を考慮するとき、保護観察によつて本人を改善更生させることは、現時点において困難と判断される。

よつて、事件本人を少年院に戻し再度矯正教育を受けさせる必要があると思料し、本件申請に及ぶ。

二  当裁判所の判断

当裁判所調査官守屋正直の調査報告書および保護観察官伊東博敏の事件本人に対する質問調書、保護観察官中島仁の事件本人の兄O・Tに対する質問調書、株式会社○○モデルショップサービス発行の請求書(二通)ならびに○○屋、○○○ストアー、○○屋楽器店、○る○や洋品店、○○旅行具店、○○商店、○尾、○か○、○屋、○カ○ラ、○ナ○ヤ、○○化粧品店、○ン○ル、○○金物○貨店、○さ○や商店、○○寝具○吉店、○コ○コ、○崎嶺、○嶺、○万○店、○シ○チ各発行の買上計算書の各写し、○藤○秀名儀の借用証と当裁判所の事件本人に対する直接訊問の結果によれば、事件本人について、申請理由に主張されている上記各事実があつたことを認めることができる。

そこで進んで右各事実が犯罪者予防更生法第四三条第一項所定の戻し収容相当の遵守事項違反であるかどうかを判断するに、

(1)  申請理由(2)の(ハ)記載の事実は、事件本人がその保護者とともに転居したものであつて、この転居の事実を保護観察所長に届出ることは、保護観察下にある者に要請されることと言うことはできても、未だ保護者の監護下にある事件本人において保護観察を行う者の許可を得なければならない事柄であるとまで言うことはできないから、この事実をもつて、直ちに同法第三四条第四号違反があるというべきではない。

(2)  申請理由(2)の(ニ)記載の各事実は、事件本人が昭和四七年八月二九日、保護観察に付された非行(窃盗)、昭和四八年一月二三日中等少年院に送致された非行(詐欺)とその態様を同じくする非行であつて、非行に走つた動機、その回数、その被害額等を総合してみるとき、中等少年院(筑紫少女苑)の事件本人に対する矯正教育はその効果をあげたということができないばかりでなく、このまま放置すれば、事件本人は、今後も、この種非行を重ねるおそれがあるものと判断せざるを得ず、法第三四条第二号違反に該当し、その違反は法第四三条第一項所定の戻し収容相当のものといわざるを得ない。

(3)  申請理由(2)の(イ)および(ロ)記載の事実は、事件本人が、安易に、言いよる男性の口車に乗つて、無断家出を繰返すうちに、次第に性モラルに無感覚になり、ついに、職業的に売春行為をする環境に身を堕してしまつたものとみることができ、事件本人の性格の弱さに端を発しており、事件本人も結婚を夢みて男の甘心を買うため、その言うが侭に売春をしたと訴えているが、事件本人にはもともと勤労によつて自らの生活を築きあげていこうという気持がなく、前(2)記載のように、親兄弟に迷惑のかかる行為を平気でする性向がある点からみて、事件本人をこのまま在宅保護(仮退院)の環境におくときには、いつたん身についてしまつた、容易に多額の金員を手にすることのできる売春行為の魅力にかられて保護者の正当な監護をきらい、無断家出をして売春生活の環境にはしる虞れがあるといわざるを得ない。

そうだとすると、右各事実は、いずれも各、法第三四条第一、第二号、特別遵守事項第三第四号に違反しているものであること明らかであるばかりでなく、その違反は法第四三条第一項所定の戻し収容相当のものといわざるを得ない。

敍上のとおりであつて、本件申請理由中(2)の(ハ)の点は理由なきものであるが、その余はいずれも理由があり、事件本人は仮退院中遵守すべき事項を遵守しなかつたものとして仮退院前に収容されていた中等少年院に戻して収容するを相当とするところ、事件本人の年齢、保護環境をもつて判断するときその期間を約一年と限るのが適当である。

よつて犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年院法第一一条第三項により、家庭裁判所調査官守屋正直および保護観察官伊東博敏の意見をきき、主文のとおり決定した。

(裁判官 矢ケ崎武勝)

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